1.摩擦負荷とは?
摩擦負荷とは、筋肉や脂肪組織、神経等の皮下組織同士が繰り返し接触・ずれを起こすことにより発生する刺激のことを指します。筋肉や腱、関節包や滑液包といった関節を取り巻く組織において生じやすく、日常生活や運動、長時間繰り返す不良姿勢等で発生し、組織の損傷や炎症を引き起こすことがあります。
2.摩擦負荷が痛みに至る流れ(生理学的プロセス)
摩擦負荷が痛みを生じさせるまでのステップを図にしたものです。

摩擦負荷による痛みのメカニズム
摩擦負荷が痛みを引き起こす主なメカニズムは以下の通りです
・組織の微細損傷
繰り返される摩擦により、筋膜や腱などの軟部組織に微細な損傷が生じます。これが炎症反応を引き起こし、痛みの原因となります。
・炎症性物質の放出
損傷した組織からは、サイトカインやプロスタグランジンなどの炎症性物質が放出され、痛覚受容体を刺激します。
神経の過敏化
炎症や損傷が続くと、神経が過敏になり、わずかな刺激でも痛みを感じやすくなります。これを「中枢性感作」と呼びます。
3.摩擦負荷が原因で痛みがでる、臨床的な影響部位と病態例

4.最新の研究成果
2024年以降の研究では、摩擦負荷と痛みの関連性について以下のような知見が得られています
・深部摩擦マッサージの効果
筋膜トリガーポイントに対する深部摩擦マッサージが、痛みの軽減や可動域の改善に有効であることが示されています。
・神経化学的メカニズム
遅発性筋肉痛(DOMS)の研究から、摩擦負荷による筋損傷が神経成長因子(NGF)やグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)の放出を促進し、痛みの感受性を高めることが明らかになっています。
・慢性痛と摩擦負荷
慢性的な摩擦負荷が、神経系の過敏化や炎症反応を引き起こし、慢性痛の原因となる可能性が指摘されています。
5.摩擦負荷が原因による痛みへのアプローチ方法
摩擦負荷による痛みの介入にはいろいろな方法があります。
大きく分けて、【手技療法】、【生活での注意点やストレッチのアドバイス】に分けられます。
【手技療法】
摩擦負荷にたいする手技療法として、基本的には摩擦負荷の原因となる筋肉や脂肪組織、神経、関節包内の運動等の皮下組織の動きを良好にし、摩擦負荷がでない状況を目指していきます。伸張負荷で実施していた【ゆらす技術】や【皮膚に対する技術】、【関節包内運動を良好にする技術】等があげられます。
負荷をかけすぎた場合、摩擦負荷が改善されるどころか悪化する場合もあるので、ボキボキと音を鳴らしたり、痛みを加えながらの手技は摩擦負荷が原因と考えられる痛みについては避けた方が良い可能性がありますので、動きをだす、誘導するという目的で以下の手技を使用します。
1.筋膜リリース
摩擦により緊張した筋膜や筋肉を緩め、滑りを改善させる目的で実施します
2.関節モビライゼーション
関節包内運動の改善、筋肉を緩め、滑りを改善させる目的で行います
筋膜リリースよりも、深部へのアプローチとして実施します
3.姿勢、動作の調整
サポーターやインソールなどを使用して、患部への負担を分散させる目的に使用します
ご自宅でなかなか意識できない姿勢をコントロールしたり、負担を軽減する目的で、体のどの部位にどのぐらいの時間
4.局所への炎症症状へのアプローチ
痛みや腫れが認められる場合はアイシング等をアドバイスさせていただき、周囲の組織の緊張を和らげます
患部を直接アプローチすることはせずに、炎症症状のおさまりに合わせて調整していきます
*炎症症状が強い場合には整形外科受診をお勧めする場合があります
【生活での注意点やストレッチのアドバイス】
・安静と活動の調整
痛みを引き起こす動作を評価し、生活の中でどのような時にその動きを取っているかを確認しつつ、なるべくその姿勢や動作を一次的に避け、組織の回復を促します。また、日常生活での動作パターンを見直し、負担を軽減するようなアドバイスをさせて頂きます。
・ストレッチング
筋肉や腱の柔軟性を高め、摩擦の原因である組織間を減らします。
・筋力強化
周囲の筋肉を強化し、関節の安定性を向上させます。厳しいものというよりも簡単で続けられるものが好ましいとされています。
・サポーターやインソールの使用
サポーターやインソールなどを使用して、患部への負担を分散させる目的に使用します。ご自宅でなかなか意識できない姿勢をコントロールしたり、負担を軽減する目的で、体のどの部位にどのぐらいの時間
・教育と生活指導
痛みのメカニズムや予防法について理解を深め、再発を防ぐための生活習慣の改善をアドバイスさせていただきます。
施術の流れとして
①カウンセリング(痛みが発生するまでの経過や痛みを感じる姿勢、動作等をお聞きします)
②姿勢の確認、評価した上で、お身体の状態を触れながらチェックし評価していきます
③手技療法を実施し、再評価します
④セルフケアのご指導をさせて頂いたり、生活習慣のアドバイス、自主練習の提案等を実施します
【参考論文】
American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation. (2024). Core Training for Pain Management and Functional Improvement in Patellofemoral Pain Syndrome.
Frontiers in Medicine. (2024). Advancing Musculoskeletal Diagnosis and Therapy: A Comprehensive Review of Trigger Point Theory and Muscle Pain Patterns.
BMC Musculoskeletal Disorders. (2025). The Effect of Friction Massage on Pain Intensity, PPT, and ROM in Individuals with Myofascial Trigger Points: A Systematic Review.
Journal of Manual Physical Therapy. (2022). The Analgesic Mechanisms of Manual Physical Therapy.